なるべく削らず歯を守る

「本当に必要なところだけを、必要最小限に」
これは、私たちが診療の現場で常に心がけている治療方針です。
歯は、一度削るともう元には戻せません。だからこそ、当院では精密機器と高い技術力を駆使して、できる限り歯を削らず・抜かずに守る治療に取り組んでいます。
マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)や拡大鏡による高精度な視野の確保、う蝕検知液を用いたむし歯の見える化、神経を残すためのMTAセメントの活用など、多くのケースで天然歯の保存に成功してきました。
このページでは、当院が行っている歯を残すためのアプローチを、具体的な治療法・設備とともにご紹介します。
「抜歯と言われたが、本当に抜かないといけないのか?」とお悩みの方も、ぜひ参考にしてください。
拡大視野下での精密歯科治療(マイクロスコープ・拡大鏡)

当院では、すべての歯科治療において精密さを追求しています。
そのため、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)や拡大鏡を使用し、肉眼では確認できない細部まで正確に把握しながら処置を行っています。
たとえば根管治療では、細く複雑な根管内の見逃しやすい感染源を確実に除去できるため、治療の成功率が大幅に向上します
。また、むし歯の取り残しを防ぎつつ、健全な歯質を最大限残すことができる点も大きなメリットです。
補綴治療(被せ物・詰め物)においても、マージン(境界部)の適合性が高まり、治療後のトラブルを予防できます。
歯周治療では、歯石の除去や歯肉の状態確認においても、肉眼では見えない部分を確認できるため、より的確な治療が可能になります。
精密な視野の確保により、歯の保存率が高まり、再発防止や長期安定性の向上にもつながります。
直径の小さい切削バー(歯を削る器具)を使用

MI(Minimal Intervention=最小限の侵襲)とは、できるだけ歯を削らず、抜かずに自然の歯を守るという治療哲学です。
当院ではこのMIの理念に基づき、歯を大きく削ることなく、必要最小限の処置でむし歯治療を行っています。
その実現のために、当院では直径の小さい切削バーを使用しています。
一般的なバーよりもはるかに細いため、削る範囲を最小限に抑えられ、健康な歯質をより多く残すことが可能です。
また、細かな部分の精密な形成にも適しており、詰め物との境界部分を滑らかに仕上げることもできます。
このような配慮は、詰め物の適合性を高め、再発むし歯や二次カリエスのリスクを軽減することにもつながります。
MIの考え方は、歯の寿命を延ばすだけでなく、将来的な再治療や抜歯を回避するための第一歩といえるでしょう。
う蝕検知液の使用で「むし歯の部分だけ」を正確に取り除く

むし歯治療において重要なのは、「どこまで削るか」の判断です。
見た目だけではむし歯の進行度を正確に把握することは難しく、健康な歯質まで削ってしまうリスクがあります。
そこで当院では、う蝕検知液という特殊な染色剤を用いて、むし歯に侵された部分を明確に染め出します。
むし歯部分だけが赤や青に染まるため、健全な歯との境界が視覚的に明確になり、削るべき範囲が正確にわかります。
う蝕検知液の使用により必要な範囲だけを適切に除去でき、削りすぎによる歯の弱体化を防ぐことが可能です。
特に深いむし歯や初期むし歯の治療において効果を発揮し、取り残しによる再発リスクも低減します。
精密な診断と処置を可能にするこの技術は、MI治療の実践にも欠かせない重要なツールです。
コンポジットレジン(CR)治療

当院では、むし歯を削った部分の修復に白い詰め物「コンポジットレジン(CR)」を積極的に用いています。
これは、歯の色に非常によくなじむプラスチック素材で、審美性と機能性を兼ね備えた治療法です。
CR治療の最大のメリットは、歯を削ったその日に修復が完了する点にあります。
来院回数が少なく、時間のない方にも適したスピーディーな治療が可能です。
また、金属を一切使用しないため、金属アレルギーの心配もなく、口腔内の見た目も自然に仕上がります。
さらに、CRは接着力が高いため、歯の切削量を最小限に抑えることができます。
小さなむし歯や詰め直しに最適で、必要に応じて細かな調整も可能です。
歯と一体化するような接着性により、むし歯の再発リスクも抑えることができます。
経済的で、身体にも優しいCR治療は、当院の「歯を守る治療」を支える重要な選択肢です。
ラバーダムによる無菌的な治療環境の確保

ラバーダムとは、治療中の歯の周囲をゴムのシートで覆い、唾液や血液、細菌の混入を防ぐための器具です。
特に根管治療やコンポジットレジン充填時など、無菌的な環境が求められる処置において、その効果は絶大です。
治療中に口の中の唾液が入り込んでしまうと、せっかく取り除いた感染源に再び細菌が混入してしまい、再感染や治療失敗のリスクが高まります。
ラバーダムはこれを防ぎ、治療中の歯をしっかりと隔離することで、成功率を飛躍的に高めます。
また、治療対象の歯が乾いた状態でしっかり見えるため、処置の精度も上がります。
CR治療のように歯と材料の接着性が重要な場合、唾液の混入は接着不良につながるため、ラバーダムの使用は治療結果に大きく関わってきます。
患者さまにとっても、誤って器具や材料を飲み込んでしまうことを防げるなど、安全性の向上にもつながります。
当院では、できる限りラバーダムを使用し、確実で安全な治療を心がけています。
MTAセメントを用いた覆髄処置

むし歯が神経(歯髄)に近い深さまで達している場合、従来は神経を取り除く「抜髄」が選択されることが一般的でした。
しかし、近年では「歯の神経を可能な限り残す」ことが重視されており、当院でもそのための方法として、MTAセメントを使用した「覆髄処置」を行っております。
MTAセメントは、生体親和性が高く、歯髄への刺激が少ないだけでなく、抗菌性にも優れており、歯の内部環境を安定させる効果があります。
また、神経を残したまま歯を保存できる可能性が高まり、将来的な歯の寿命を延ばすことができます。
MTAセメントは硬化時に膨張するという性質があり、歯としっかり密着することで、隙間からの細菌侵入を防ぐ封鎖性にも優れ、覆髄後の再感染のリスクを大幅に減らすことができます。
神経を取らずに歯を残すことができれば、歯の強度や感覚を維持することができ、結果的に再治療や抜歯のリスクを抑えることにもつながります。
歯冠長延長術(クラウンレングスニング)

歯冠長延長術(クラウンレングスニング)とは、歯ぐきを切開し、必要に応じて骨を整形して、歯の見えている部分(歯冠)を長くする外科処置です。
虫歯や破折などにより、歯の大部分が歯ぐきの中に隠れてしまっている場合や、被せ物を安定して装着するために必要な健全歯質が足りない場合に行われます。
たとえば、「歯が深いところまでむし歯になっていて、詰め物や被せ物が入れられない」といったケースでは、歯冠長延長術を行うことで、歯ぐきの中に埋まっている歯質を露出させ、補綴処置(被せ物など)が可能になります。
また、歯周ポケットが深い場合にも、清掃性を改善し、歯周病の再発を防ぐために適応されることもあります。
この処置は歯の保存に大きく貢献し、抜歯を回避できる可能性を高めます。当院ではCTによる事前の精密診査を行い、歯ぐきや骨の形態を的確に把握したうえで、最小限の侵襲で丁寧に処置を行います。
治療後は適切な被せ物や補綴治療へとスムーズに移行できるようサポートしています。
矯正的挺出(エキストルージョン)

矯正的挺出(エキストルージョン)とは、歯を歯ぐきの外側(口腔内)へと引っ張り出す矯正治療の一種です。
特に、歯が歯ぐきの深い部分まで虫歯や破折によって損傷している場合に、その歯を保存するための手段として行われます。
通常、虫歯が歯ぐきの奥深くまで進行してしまった歯は、被せ物を装着するための健全な歯質が確保できず、抜歯の判断を迫られることが多いです。
しかし、矯正的挺出を行うことで、歯根を引き上げて健全な部分を歯ぐきの上に出すことができ、補綴処置(被せ物)を行いやすくなります。
また、歯周組織の付着位置も一緒に移動させることで、歯ぐきとの適合性を保ちながら健康な状態を維持しやすくなる点も大きなメリットです。
歯周外科処置を回避できるケースもあり、歯をできるだけ抜かずに治療したい患者さまにとって、有効な選択肢となります。
当院では、CT撮影や矯正的シミュレーションを行い、エキストルージョンが有効かどうかを慎重に判断したうえで、必要に応じて専門医による矯正的挺出を実施しています。
歯根端切除術
歯根端切除術とは、根管治療(神経の治療)を行った後も、根の先に慢性的な炎症や膿の袋(根尖病変)が残ってしまった場合に、その歯根の先端部分を外科的に切除し、病巣を直接除去する治療法です。
通常の根管治療では改善が難しい場合や、再治療でも治癒しないケースに適応されます。
この術式では、歯ぐきを切開して骨を少し取り除き、問題のある歯根の先端を露出させます。
その後、感染した組織とともに歯根の先端を切除し、切断面にMTAセメントなどで封鎖処置を行い、再感染を防ぎます。
歯を抜かずに済む可能性が高まるため、できるだけ歯を残したい方にとっては非常に有効な選択肢です。

歯周外科治療

歯周外科治療とは、歯周病が中等度〜重度に進行し、通常の歯石除去(スケーリング・ルートプレーニング)だけでは改善が難しい場合に、歯ぐきを切開して奥深くに溜まった歯石や感染組織を直接除去する治療法です。
この治療では、歯ぐきを一時的に開いて、歯根の表面や骨の周囲に付着している歯石を目視下で徹底的に清掃します。
これにより、深い歯周ポケットが浅くなり、ブラッシングがしやすくなることで、歯周病の進行を抑えることができます。
歯周外科治療は、歯を長く健康に保つための再スタートとも言える重要な処置です。
患者さまのご負担をできるだけ軽くするために、当院では、必要最小限の切開、術後の痛みや腫れを抑える処置、術後の丁寧なメンテナンスまでを一貫して提供しております。
歯周組織再生療法

歯周組織再生療法とは、歯周病によって破壊されてしまった骨や歯根膜などの組織を、再び再生させることを目的とした先進的な治療法です。
従来は進行した歯周病によって失われた組織は回復不可能とされてきましたが、現在では再生療法によって、ある程度までの回復が可能となってきています。
具体的には、エムドゲイン®(エナメルマトリックスたんぱく)やリグロス®(bFGF製剤)などの再生促進薬剤を使用し、歯周病によって失われた骨の再生を促します。
手術中に歯ぐきを開き、感染組織を取り除いたうえで薬剤を塗布し、歯周組織が再生されるのを待ちます。
この治療は、歯の動揺を減らしたり、歯ぐきの健康を取り戻すために非常に有効です。
当院では、CTによる骨の評価や、歯周病の進行状況を精密に診断した上で、再生療法の適応があるかどうかを慎重に判断し、治療計画をご提案しています。
親知らずの自家歯牙移植

親知らずの自家歯牙移植とは、虫歯や破折などで保存できなくなった歯を抜歯した部位に、自分自身の親知らずを移植して、機能回復を図る治療法です。
インプラントに代わる「自分の歯を活かす再生治療」として注目されており、条件が整えば非常に高い成功率が期待できます。
たとえば、奥歯を失った場合に、まだ根が完成していない親知らずが口腔内に残っていれば、その歯を適切な位置に移植することで、噛む機能や歯列のバランスを自然に回復することが可能です。 移植後は根管治療や被せ物治療が必要になることもありますが、異物を入れるインプラントと違い、自分の歯を使えるという点で非常に大きな利点があります。
当院では、CT撮影による正確な位置と形状の診断をもとに、歯の保存可能性と移植の適応を丁寧に判断し、術後の予後まで見据えた計画をご提案いたします。
移植成功後も定期的なフォローを行い、長く自分の歯を使えるようサポートしています。
患者さまの歯を「守ること」が私たちの使命です
どんなに優れた詰め物や被せ物でも、天然の歯に勝るものはありません。
だからこそ、当院では、できる限り歯を削らず・抜かずに残すことを信条に、治療にあたっています。
すべての処置は患者さま一人ひとりに合わせたオーダーメイド。
無理に治療を進めることはありません。まずはお気軽にご相談いたければと思います。
武蔵小杉の地で、皆さまの笑顔と健康を支えられる存在でありたいと思っています。